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地域バリューシステムで創造する林業成長産業化

◆はじめに
本稿のキーワードは、サプライチェーン、バリューチェーンとバリューシステム、バイオエコノミーです。まずそれぞれについて説明した後、具体例を挙げて「地域バリューシステムで創造する林業成長産業化」のイメージをつかんでいただければと思います。

◆情報化がもたらすもの
まず、サプライチェーンの情報化がビジネスにもたらす意味をおさらいします。
情報化はサプライチェーンの効率を向上させ、短期的に利益を生みます。しかしながら、情報化はすでに一般的なものとなりつつあり、「ある会社」だけに特有のものではなくなってきています。
情報化が広まることで、■情報化が遅れたところは、競争に負ける■情報化を行っても、コスト競争に巻き込まれる
という、ビジネスにとって非常に厳しい状況が生まれています。これを打破するには「新しい競争価値(価格)を創造する」ことが必要です。成長産業化にはこの発想が必要だと考えます。

◆サプライチェーンとバリューチェーンのちがい
では、どんな発想をしたらいいのでしょうか。そのためにまず、サプライチェーンとバリューチェーンの違いを明確にしようと思います。
サプライチェーンは、原材料が加工され、最終的に商品需要先に届くまでの流れを指します。これは川上から川下へ流れていく物流と、川下から川上に流れていく金流、そして、各地点から流れてくる情報流からなります。
この後者二つが、サプライチェーンの目に見えない部分であり、伐採現場では、どこに、なにが、どれだけ、いつ生産されたか、という情報が原木とともに生産されている、ということになります。
また、サプライチェーンは生産から需要先までの流れであるため、一つの企業の内部にすべて収まるというわけではありません。多くの企業が関わりあって、作られているという側面があります。
次に、バリューチェーンですが、これは付加価値を作る流れのことです。サプライチェーンとは違い、企業の中で「自社の価値として」商品やサービスに付与される価値のことを言います。
したがって、他社とどこがちがっていて、だからこれくらいの価値がある、という自社の強みを明らかにしなければ、このバリューチェーンを作ることは出来ません。
林産業の場合、多くは「樹種」や「産地ブランド」がこのバリューチェーンを支えてきました。しかし、秋田スギや木曽ヒノキ、吉野スギといった銘木も、今、価値を生むのに苦労しています。需要の変化が大きな理由だと考えられ、今後は「樹種」や「産地ブランド」といった既存の価値ではないところに価値をどう生むか、というのが成長産業化のカギだと考えられます。

◆バリューシステム
バリューチェーンは一つの企業の中の付加価値の連鎖ですが、サプライチェーンの中で多くの企業が関わって付加価値をつけていくことをバリューシステムといいます。サプライチェーンがもたらす価値は、実はバリューシステムの価値の総和です。
今はこの「バリューシステム」が「ビジネスエコシステム」という概念の一部として、多くの産業で脚光を浴びています。国際的には林業も、このバリューシステムの考え方を取り入れており、フィンランドが大きな動きを見せ、バイオエコノミーという考え方が登場してきました。

◆バイオエコノミーという新たな動き
バイオエコノミーというと、なんだかなじみがありません。それもそのはず、日本ではまだまだといった状況です。言葉からは再生可能な素材やバイオテクノロジーを利用して新しい商品を開発するという印象を受けます。しかしそれだけではありません。バイオエコノミーはもっと幅広く、それを支える技術もバイオエコノミーとして位置づけられています。したがって、情報化技術もバイオエコノミーの一部であり、林業は既にバイオエコノミーの一端に触れていることになります。
バイオエコノミーの大きな目的は、地球環境問題や格差問題など、いろいろな社会的な問題を、化石資源を使わず、再生可能資源をベースとした経済を構築することで、ビジネスの中で解決していこうとするものです。どの課題に取り組むかは企業の特色が出るところであり、また企業固有の課題もあるため、実は「バイオエコノミー」というコンセプトには、バリューチェーンやバリューシステムの構築のヒントがたくさんあります。
ではここで、バイオエコノミーの一つとして、イタリアのチーズ熟成工場の事例を見てみましょう。

事例:イタリアのチーズ熟成工場における取組み
イタリア共和国は一二三万トンのチーズ生産量を誇ります。ちなみに日本国の生産量は一三万トンです。想像通り、イタリア国民にとってチーズとは無くてはならないものです。
さて、おいしいチーズにとって熟成は最も重要な工程であり、種類によって異なる熟成期間を一定温度で管理しなければならないため、チーズ熟成工場が多く存在します(写真1)。ヴェネト州のあるチーズ熟成工場では、地下に熱供給設備を設置しました(写真2)。もともと重油ボイラーを利用していましたが、2MWの木質燃料ボイラーへと切り替えました。

理由は、重油よりも木質チップのほうが安いという経済的な理由、木質チップを使えば地域経済が潤うという社会的な理由、そして自社の二酸化炭素排出量を削減できるという環境的な理由の3つです。他のメリットは、計画から導入までは2~3年と、短期間の実現可能性です。
チップ材はチーズ工場から100メートル程度離れた土場に集荷された地域材や地域の製材端材であり、材の集荷からチッピング、工場構内のサイロまでの小運搬まですべてチッピング業者が行っています。
チーズ工場が、チップを直接購入するということも考えられましたが、地域にお金を落とすということを意識する工場側の意向で、トレーサビリティを確認しやすいこのサプライチェーンを構築したということでした。

事例から言えること
チーズ工場の事例のポイントとしては、
■需要の季節変動が小さい点
■トレーサビリティがしっかり確保されている点
■「チーズ熟成サービス」「熟成チーズ」に環境・社会的な付加価値を提供し、林業だけでは作れない工場のバリューチェーンと地域バリューシステムが構築できている点
この3つが挙げられます。チーズ需要という「すでにある需要」をターゲットに付加価値をつけているところも、ビジネスとして、とても上手です。

◆おわりに
林業の成長産業化には二つの方向性があります。一つは新しい素材・商品を作る方向性、もう一つは林業と地域産業が協力し、地域バリューシステムを構築するという方向性です。ぜひ、地域の資源を見直して、この二つのバランスの取れた成長産業化を目指してほしいと思います。

〔秋田県立大学 特任助教 吉田美佳〕